雪のなか、また変な予告もあったなか、新宿まで足を運んでくださったみなさま、ありがとうございました。正直、この状況ではお客さん来てくれないかもなあ……と懸念もしていたので、ほぼ満員の客席に驚くと同時に、勇気をいただきました。本当にありがとうございます。
昨日のジュンク堂書店新宿店でのトークは、かっちりしたワンテーマに絞ったわけでもなく、少し緩めに設定していたこともあり、散漫な印象を与えてしまったかもしれません。また誤解される点も多々あったかと思いますので、今回の『〈建築〉としてのブックガイド』について、以下に補足します。
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まずこの本の最大の目的は、書き手たちに、新しい書く場(メディア=容れ物)を用意することにありました。
でもそれを成立させることは容易ではありません。出版社やデザイナーとの話し合いの中で、書き手のバランスをどうするか、パッケージの仕方をどうしていくか、今の自分たちの現状で何ができるのか、現実的な問題と折り合いをつけつつ、慎重に企画を進めていきました。
そして、本全体を一個の〈建築〉に見立て、各パートごとに執筆者を配置する、とゆう今回のスタイルを採用することにしました。一種の見立て遊びです。この遊び感覚(プレイフルな感覚)は、この本のメインコンセプトとして君臨している、と同時に、ある種の〈隙〉を生み出してもいます。
〈隙〉があるのは弱点でもあります。もっと明確なテーマや方針によって、本全体をカチカチに作り込むことはできたと思う。でも多少脇が甘くても、こうした〈隙〉のある本を面白がってくれる読者がいる可能性のほうに賭けてみたかった。このへんの話は、2月26日に仲俣暁生さんや百年の樽本樹廣さんとも話してみたいところです。(あ、予約受付開始しました!)
http://www.100hyakunen.com/events/talk/20110207326.html
例えば演劇の世界を見てもそうですが、こうしたプレイフルな感覚のようなものは、誰もが受け入れてくれるわけではありません。リスクの大きい賭けです。でも出版(publish)の世界を地盤沈下させないためにも、こうした謎めいた(?)出版物が刊行される可能性も、あっていいのではないかと思っています。てゆうか、もっとワクワクしてもいいんじゃないだろうか。
この賭けの責任は、もちろん企画者である2人に帰することになります。全体のトーンを支えるための、個々の文章の強度については、かなり地道な編集作業を行ったりもしました。結果的に、個々の書き手の〈声〉のようなものを載せる本にしたかったんですけど、それが成功したかどうかは読者のみなさんに委ねたいと思います。
それと、大澤聡くんに「この企画はブックガイドでなくてはならなかったのか?」と問われてあらためて自覚しましたが、やっぱり個々の書き手が選書することで、その対象となる本に寄り添ったり突き放したりする、そのスリリングな距離感が、このブックガイドの大きな魅力のひとつにもなっていると思います。つまり、個々の書き手の内面を絞り出してもらうというよりも、その外側にある、本、との関係の中で、生まれてくる文章を読みたかった(書いてほしかった)。
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あ、もうひとつ。
これは編集作業の最中だったので、もうすでに企画は走り出していたのですが、去年のフェスティバル/トーキョーで、飴屋法水の『わたしのすがた』とゆう作品を体験しました。その帰りに、夕暮れ、巣鴨駅の喫茶店で珈琲を飲みながら、なぜか本について、漠然と考えたのは……職業的に、網羅的に新刊をチェックして、情報として吸収していくような読書の仕方もあるし、特にわたしのような編集や物書きの仕事であれば、むしろそうすべきである、それが〈知〉や〈情報〉を形成することである、と一般には考えられてきたのかもしれない。でも、本が、わたしはやっぱり好きで、(昨日、松田青子さんもゆってたけど)小さい時から読んできているし、例えば書店や古本屋で、ふっと目に付いた本があって、たまたま手にしてみて、ページをめくるうちにその世界に引き寄せられてしまうような、そういった一期一会の体験のようなものはあったし、これからもあってほしい。
そして本にかぎらず、何ごともそうゆう出会い方をしていきたいと思うんですよね。名刺交換も時には大事だし、いちおうこれでもまっとうに仕事してるのでちゃんとする時はしますが、とはいえ出会い方にはいろいろあって、タイミングとか、グルーヴとか、感触とか、顔とか、声とか、手触りとか、あると思う、人間の惹き合う力の中には。もし仮に人間とゆうものが、時代に流れされる、流れる生き物だとしても、そういった感覚のあるほうに流れていきたい。阿呆だ馬鹿だとそしられても、石を投げられても、そこに素直に生きていくほうが、よい歳のとりかた(時間の流れ方)をできる気がするし、まあ、そうはいっても、最後は骨に還るのだなあと。
このブックガイドも、そこに書かれているそれぞれの言葉も、そうした流れの中で誰かに届いてくれたらいいなーと願っていますが、まあまだ、始まったばかりですね。
昨日、コミュニティをつくるのはイヤだ、みたいなことをゆったけど、同志はいると思うし、そこのゆるやかな連帯感は、ちょっとありますよ。