7月の観劇メモ。
■競泳水着『女ともだち』@下北沢「劇」小劇場
■青年団『東京ノート』@新国立劇場特設会場
■黒澤世莉演出版『ON THE WAY HOME』@シアターKASSAI
■範宙遊泳『ラクダ』@王子小劇場
■吾妻橋ダンスクロッシング@アサヒアートスクエア
■岸井大輔『東京の条件 会議体』@アーツ千代田3331
■鈴木忠志演出『シラノ・ド・ベルジュラック』@新国立劇場
■ろりえ『暖かそうな場所』@nakano f
■水天宮ピットオープニングイベント(FUKAIPRODUCE羽衣、劇団鹿殺しRJP)
■WOSK presents Vol.9@六本木スーパーデラックス
■toi『華麗なる招待』(star/tree ver.)@横浜STスポット
■スミイ企画『日常茶飯事』@アトリエ春風舎
以下、駆け足で極私的な感想を。本当はもっとひとつひとつ真摯かつ丁寧に書かなくちゃ、ツクリテが作品に込めた気持ちや労力には報いられないとは思うし、例えばこんなふうにまるで「評価」するみたいに観ることが、なんのためか、効果はあるのか、権利あんのか、意味あんのかー!? と、そうゆうことは当然問われるし、頼まれもせずに書くことに(ただでさえ忙しいのに阿呆ではないか)徒労感さえある。演劇はきっと、こんなふうに一方的に裁断されることによってのみ成り立っているわけではないのだから。それはまるでルパン三世における石川五右衛門が、またつまらぬものを斬ってしまった、とか言いながら斬り続けてしまうことにも似ている。折れないことが大事。
競泳水着『女ともだち』、主宰によるいわゆる「トレンディドラマをやりたい」ことのベタさがぎりぎりのところでセーフだった(ユーチューブのトレイラーのほうはわたし的にはアウト)。ドラマをやることはまだ可能かも、と際どいと思いながらも涙した。役者さんたちの丁寧な演技がきらりと光っていた。
青年団『東京ノート』は現代口語演劇の原型なのだと痛感した。批判的に継承するための叩き台として完成された(ある意味では隙までも計算されて残したような)作品である。あのバナナ学園純情乙女組でさえこれを批判的に受け継いでいると言えるんじゃないか。とにかく会場の見晴らしが壮観! あの場所を舞台にしてしまう平田オリザの想像力が凄い。
黒澤世莉『ON THE WAY HOME』についてはすでにこのブログにも書いたように様々な発見があり、構成のオノマリコとのコンビも今後見てみたい。もう少し反芻しつつちゃんと書きたいと思っています。
範宙遊泳『ラクダ』は面白かったけど、作家の「照れ」のようなものを感じてしまった。もっとずいずい中に入っていったら何が見えるだろう? しかし明らかに何かヘンである作風はとても好感が持てるし今後も観てみたいカンパニーのひとつ。浅川千絵はやはりここでもご活躍のご様子だった。声でかいな。よく通る。なんか時空が歪むような感じ。
岸井大輔の『東京の条件』は一瞬しかお邪魔できなかったけど岸井さんがやりたいことがようやっと理解できた気がした。ここから有機的な動きがいろいろ生まれてきそう。企画の意図上、ハイコンテクストにならざるをえないところを、今後どうアナウンスして外部との回路を保って活動していくか、といった課題はあると思います。
鈴木忠志『シラノ・ド・ベルジュラック』はとにかくまず観れたことが良かった。あんなふうに舞台の上で死ぬとゆうことはもはやこれからを生きる人間には訪れないだろうし、近代が夢見たものの最後の最後がこれなのだ。
ろりえ『暖かそうな場所』は生っぽさが気になってしまい、そのうえ会場がだんだん暑くなって気持ち悪くなったりもして許されるなら途中で帰りたかったのだが、しかし、ありえねえと思いながらも最終的には観て良かった。また観てしまうかもしれない怖さがあるのは梅舟マジックか。梅舟惟永は俳優としてかなり魅力的で、人気があるのも分かる。今回の芝居にも感動させられた。あとしかし演出上パンツを見せるのはちょっとどうなのかな。とにかく全体的にいい意味でも悪い意味でも目のやり場に困った。そこを狙ってるのは分かるし、好きな人は超好きなんだろうと思う。
水天宮ピットのオープニングイベントは学校の旧校舎がビアガーデンみたいにもなってて全体的に開放的なイベントになった。神里雄大の役者ぶりも思いのほか羽衣にフィット。羽衣は下ネタは控えたらしいけど、控えてもアレっていうのが凄い(笑)。それを地元のおじちゃんおばちゃん子供たちが楽しんでいた(と思う)。鹿殺しは菜月チョビさんはじめメンバーがパワフルで魅力的だとは思いながらも、あんなに劇団名を連呼しなくても良いのじゃないだろうか?(笑)でもいつか本公演も観てみたいです。
WOSK presents Vol.9 はコアオブベルズやHOSEをはじめ様々なユニットが参加したイベントで、手塚夏子×捩子ぴじんの実験ユニットも極めて刺激的だった。手塚夏子の求道者っぷりは凄まじいし、観ていて超面白い。張り詰めた空気の中でもユーモアの光るパフォーマンスだった。しかしこの夜の圧巻はなんといってもほうほう堂+DJs(佐々木敦、大谷能生)。大谷能生の最近の演劇・ダンスシーンにおける活躍はめざましく、ツクリテが彼と組みたがるのも良く分かる気がする。佐々木敦のDJもハマっていたし、ほうほう堂の最近のパフォーマンスはいつ観ても素晴らしい。これはできればもう少しきちんとレポートしたい。
toiの『華麗なる招待』は2バージョン観たけども、2つとも観たことで面白さが10倍以上に。ワイルダーって面白いなあ。ただstarバージョンのほうは、最後のアレは僭越ながらわたし的には無いほうが良いと感じられた。それはわたしの中にどこかヒューマニスティックな精神が残ってしまっていて、だからああやって生死を扱ってしまう仕掛けに対しては違和感を抱いてしまうのかもしれない。もちろん演出の柴幸男の意図が別に人間主義的なところには全然なく、むしろそこを突き放したいのだろう。そういえば「人間って動物みたいだな」とゆうことをなぜか今回のtoiを観ながら思ったのだった。そうした機械というより動物っぽい野蛮さが今回のtoiにはあったし、そこには役者の力も大きく貢献しているのだろう。あるいは柴幸男の演出にある種の図太さが出たのか? 岸田賞をとってからというもの、柴幸男は決して完成されることなくどんどん成長している。演劇人はもっと柴幸男を恐怖した方が良い(してるだろう)。俳優も豪華なメンバーが揃っていて、とりわけ青柳いづみはかなりヤバかった。わりと俳優って、キャラ、なり、役柄、なりを演じてしまいがちだし(そういう仕事だと思われているし)、柴幸男の作風自体も構造的に箱庭的に作り込むタイプだからそれでピタリとピースがはまるのだけど、その中にあって彼女はどこか全然別の方向にひらいている/とじている感があって、それがあの『華麗なる招待』に、箱庭的ではない、無限のパースペクティブを、あるいは「外部」を感じさせる「出口」をもたらしていて、それがワイルダー(柴幸男)とかけ算になっていて面白かった。相性が良いのか悪いのかわからないけど、かけ算。結果的に凄く良かった。彼女はどうしてあんなことができるんだろう? チェルフィッチュやマームとジプシーでの経験が活きていることは間違いないとしても。そしてこれは決してロボットには演じられない、計算や効果の彼岸にある何物かであると思う。ひとりだけ違う演劇をしているようにも感じられたし(にもかかわらずちゃんとあの作品の中にいたし)、こうした「出口」の存在は例えば今や柴幸男の代表作といえる『わが星』の時にはわたしには感じられないものだった。いうなれば彼女は自由な牢獄に幽閉された年齢不詳のお姫様(でも実は正体は魔女)のようであった。あとtreeバージョンでは坂口辰平くんの隣の席だったのだけど、彼が隣の席でだんだん死に向かっていくのが分かって痛々しかった。何もしてないのに彼は額にもの凄い量の汗を浮かべていて、ああ、人間はこうやって歳を重ねて死んでいくのかと思った。ハイバイに所属する彼も独特のリズムを持った俳優である。あと大重わたる(夜更かしの会)とかマイペースで空気読まない感じで面白かったな。toiは年に一度ペースらしいので、また来年楽しみにしています。
スミイ企画『日常茶飯事』は予想外の驚きがあった。もちろん全然ダメ、とゆう人もいるのだろうけど、わたし的には捨て置けないものを感じた。ツイッターにも長々と連投してしまったけども、アレが「ゆるくやりたい」とかいう程度の狙いなのだとしたら面白くもなんともないけど、結節点や構造がいやおうなく作られてしまうことに対して戦略的に軟体動物であろうとしているのであれば、方法論として今後傑出してくる可能性はなきにしもあらずだと思った。少し、かつてアトリエ春風舎で観た時の地点を思い出した。これはスミイ企画そのものとは直接関係ない余談だが、演劇にはリアリズムとゆうものがあって、現代口語演劇ないしその延長線上の武器の数々は演劇を現前させるための有効な方法ではあるのだけど、リアリズムの桎梏(縛り)とゆうものも当然あって、そこをいかに欺すか、あるいはバリバリと食い破ってしまうか、それともぬるぬると呑み込んで消化してしまうか、どーすんの? とゆう問いかけはもっとされてもいいのではないか。今目立った活躍をしている演出家たちはそこにいやおうなしに意識的であると感じる。もっと自由にやってよいのだと。そして観客にも、単に涙や、笑いや、喜怒哀楽といった言葉に収斂されるのではない、もっと様々な感動の可能性があるのだと信じたい。舞台には未だ、名前の付けられていない感動があるのだ。スミイ企画にはもしかしたらそうした未知の感動を開拓する可能性があるのかもしれない。でもまだ分かんない。たまたま一回観ただけだし。俳優3人、魅力的でござんした。